文法の基本「たり〜たり」の使い方・回数・言い換え表現 【例文解説】
■例文で見る「たり〜たり」(並列)の用法
「今日はおやつを食べたり本を読みます。」
このような文章に見覚えのある方は多いのではないでしょうか。実はこの文章には、よくある誤用が紛れています。それは「たり」の使い方です。
この文における「おやつを食べること」と「本を読むこと」はどちらも今日やることの一つで、両者は並列の関係にあります。例文における「たり」は並列・列挙の意味で使用されています。
「たり」を並列・列挙の意味で使用するときには、1つの動作につき1回、上記の文では計2回繰り返すのが基本です。例文には1回しか登場しないため、誤用であることがわかります。
共同通信社の『記者ハンドブック 新聞用字用語集』においても、「たり〜たり」は「誤りやすい語句」の一例として取り上げられており、下記のように説明されています。
「飲んだり歌ったり」のように動作や状態を列挙する場合「たり」を重ねるのが基本。
共同通信社『記者ハンドブック 第13版 新聞用字用語集』
したがって、例文はこのように書き換えられます。
今日はおやつを食べたり本を読んだりします。
「基本的にたりは2つセット」と覚えておき、確認するクセをつけておきましょう。
特に、下記のように並列する動作の位置が遠い文章では、違和感を覚えづらいものです。注意深くみるように心がけてみてください。
Befere:今日はおやつを食べたり、近所の大きな図書館に行って本を読みます。
After:今日はおやつを食べたり、近所の大きな図書館に行って本を読んだりします。
■なぜ「たり」は省略されがちなのか
並列の「たり」は複数セットで使用しなければ基本的には誤用のはずですが、世の中には1回しか使わない例があふれています。ニュースのテロップやアナウンサーの解説、電車や公共施設の説明書きなど、目にする場面はさまざまです。
これは一体、なぜなのでしょうか。
もちろん、まったく意識せずにたまたま誤用しているケースもあるかもしれませんが、ほかにも二つ、理由が考えられます。
まず一つは、「たり」を繰り返すと文章が長くなってしまうため、簡潔に書くために省略しているケースです。特に「放課後はおやつを食べたり勉強したりしました」のように後半で「する」という動詞が続いてしまう場合は、冗長で読みづらいため省略して、「放課後はおやつを食べたり勉強しました。」のように書く人が多い傾向があります。
この場合は、動作の順番を入れ替えて「勉強したりおやつを食べたりしました。」と言い換える、「放課後はおやつを食べてから勉強しました。」のように列挙しない形にするなど、表現を工夫すれば解決します。
しかしそうした表現が必ずしも思い浮かぶとは限りませんし、文字数の制限上、「放課後はおやつを食べたり勉強しました。」がいちばん収まりが良いケースもあるでしょう。言葉は時代にしたがって変化していくものですし、やむを得ず使用することまですべてを「誤用」とみなして指摘する必要はないのではないかと個人的には感じています。
次に考えられる可能性は、「たり」を1回だけ使っても誤りではない用法があるため、それと混同しているケースです。詳しくは後述します。
■「たり」を3回反復して使うこともある
「たり〜たり〜たり」と「たり」を3回連続で使用してもいいのか、悩む人もいます。たりは何回まで使用していいのでしょうか。
先述したとおり、並列の「たり」は動作1つにつき1回使用するのが基本です。ですから3回使用しても文法的には問題ありません。極端な話、何回使ってもまちがいとまでは言えません。
ただし、なんども繰り返せばくどく感じる人もいるでしょうから、気になる場合は別の表現に言い換えられないか考えてみてください。たとえば下記のような言い換えが可能です。
Before:今日は友達と食事に行ったり運動したり本を読んだりします。
After.1:今日は友達と食事に行きます。運動と読書もします。
After2:今日は友達と食事に行ってから運動と読書をします。
After3:今日は友達と食事をする予定があります。そのあと運動と読書をします。
■「たり」を1回だけ使う「例示」の用法もある
実は「たり」には並列以外の用法もあります。1回だけ使用して、ほかにも同様のものがあることを暗示する「例示」の用法です。
「たり」があるものとないもの、2つの例文で確認してみます。
Before:「明日は文章を書きたいけれど…忙しいかなあ。」
After:「明日は文章を書いたりもしたいけど…忙しいかなあ。」
両者のちがいは、「文章を書くこと以外にもやりたいことがあるか否か」が文面から伝わるかどうかです。「たり」がないケースからは、ほかにもしたいことがあるかどうかは読み取れませんが、「たり」を加えるとほかにもしたいことがあると伝わる文になります。
このように例示の「たり」は、ほかにも同じような例があるけれどすベて列挙するのが難しいときや、ハッキリとは言い切れないときに役立ちます。ですから、列挙したいものが2つか3つしかない場合や、すべて明らかにして記載したほうが良い場合には、わざわざ「たり」でぼかさずにすべて書いてしまうのがおすすめです。
「たり」をみつけたら、並列と例示のどちらの用法で使用されているのか確認するようにしてみてください。
■「たり」を別の言い方に言い換えるには
「たり」を繰り返し使用したくないときには、1回のみ使う「誤用」に頼るまえに別の言い方ができないかどうか考えたいところです。では実際に、どのように言い換えればいいのでしょうか。下記にいくつかのパターンを挙げたので、参考になさってください。
・動詞を名詞に変える
<例文1>
Befere:今日は本を読んだり運動したりします。
After:今日は読書と運動をします。
<例文2>
Befere:風邪予防のため、手を洗ったりうがいをしたりするのを忘れないようにしましょう。
After:風邪予防のため、手洗い・うがいを忘れないようにしましょう。
・並列する動作を1つにまとめる
<例文>
Befere:ここで食べたり飲んだりしないでください。
After1:ここで飲食しないでください。
After2:ここは飲食禁止です。
・文章を区切る
<例文>
Befere:ここでは食べたり飲んだり騒いだりしないでください。
After1:ここでは食べたり飲んだりしないでください。騒ぐのも禁止です。
After2:ここは飲食禁止です。騒ぐのも控えましょう。
■「たり」を使うときに気をつけたいこと
「たり」を使うときには、回数以外にも気をつけたいポイントが2点あります。
・「たりなど」の使用は控えたほうが無難
まず1点目は、「〜たりなど」のように「たり」のうしろに余計な単語をつける表現はできるだけ避けることです。たとえば下記の文章を読んでみてください。
Befere:図書館では、調べものをしたり本を読んだりなどすることができます。
調べものや読書以外にもできることがあるから「など」をつけたのでしょうが、冗長かつ発音しにくいので、削除して下記のように短縮してしまいましょう。
After1:図書館では、調べものをしたり本を読んだりできます。
After2:図書館では、調べものや読書ができます。
ちなみに「など」は便利な言葉ですが、ほかに列挙できるものが具体的に想像できる場合や、ほかにも例があることを正確に示さなければ問題になる場合にのみ使用します。多用すると「など」に一体なにが含まれるのかわからず、あいまいな印象を与えることもあるため注意すべき表現です。
・「たり」の位置に注意
「たり」を2回使っているのはいいものの、挿入する位置をまちがえてしまうケースもしばしばみられます。
まずは以下の文章を読んでみてください。
Befere:幼い頃、祖父母の家で手持ち花火をしたりスイカを食べた記憶がよみがえったりした。
おかしい点がおわかりでしょうか。2つ目の「たり」の位置が変ですね。
祖父母の家でやったことは「手持ち花火」と「スイカを食べること」であり、本来はこの2つが並列の関係にあるはずです。しかし2回目の「たり」は「よみがえる」のうしろについており、「手持ち花火」と「記憶がよみがえったこと」が並列関係にあるかのようです。
正しく書き直すと以下の文になります。
Befere:幼い頃、祖父母の家で手持ち花火をしたりスイカを食べたりした記憶がよみがえった。
並列の「たり」を使うときには、なにとなにが並列の関係にあるのか、階層をたしかめてから2回目の「たり」を書きましょう。
■まとめ
・並列の「たり〜たり」は基本的に2回セットで使う(3回でも可)。
・「たり」を1回だけ使用する例示の用法もある。
・「たり」を別の表現に言い換えるときは動詞を名詞化するか文章を分ける。
・「たりなど」のような読みづらい表現や「たり」を挿入する位置に注意する。